日本海岸林学会

Japanese Society of Coastal Forest

海岸林について

海岸林の現状と課題

海岸林の現状と課題は,主に4つの問題が挙げられます。

1. 松くい虫被害の問題

毎年夏から秋の時期になると、海岸林のクロマツや山や家のそばのマツが緑から赤茶色に変色して枯れていることがあります。この原因にあげられるのは、樹木の病気や害虫被害・水分不足など色々なものがありますが、特にマツの海岸林で周辺のマツが枯れてしまう原因は「松くい虫」です。

昔は、海岸林の生物の項目で紹介した、マツの枝や樹皮の内側を食べて成長するマツノマダラカミキリなどの昆虫が原因だと考えられてきました。しかし、実際にマツを枯らしている原因は、マツノマダラカミキリに寄生している共生関係のマツノザイセンチュウです。春から夏ごろに卵から羽化したマツノマダラカミキリは色々なマツに移って食事をします。そのときに、マツノザイセンチュウは成虫が食べた後の樹皮の傷からマツの中に入って栄養を吸い取って成長するため、周辺のマツが枯れてしまうのです。

そして枯れたマツは、マツノマダラカミキリの良い産卵場所となります。卵から羽化するとき、再びマツノザイセンチュウが寄生し、この流れが続いていきます。この伝染する病気のことを、「松くい虫」と昔から呼び、正式には「マツ材線虫病」と呼ばれています。

2. 海岸林の植生遷移問題

海岸林は、海岸沿いに住む人々の手によって管理され造られてきました。しかし現在は、高齢化や都会に出稼ぎに出てしまうなどの原因で管理する人が少なくなっていて、雑草・雑木が生え、徐々に海岸林の植生が遷移してきています。雑木などが増えると、「松枯れ」の原因になってしまいます。

植生の遷移とは、まず、火山溶岩上でも時間が経てば地衣類やコケ類が生えていき、次第に草木、低木林、陽樹の高木林と植物群落が変化していきます。そして最終的に、全て陰樹の高木林となってしまう極相林と呼ばれる状態に遷移することです。陽樹とは、太陽の光を多く必要として光合成をおこなう植物で、陰樹は、陽樹より太陽光が少なくても成長できる植物です。この極相林にさせないよう人の手で、途中で遷移を止めている状態を2次林と呼び、そのままの状態のことを自然林と呼びます。

そこで、多くの海岸林は、クロマツを植栽している2次林なので、現在の管理されなくなった海岸林にはマツ林内に雑林の広葉樹などが生えてきてしまいます。広葉樹は落葉・落枝などで土壌の栄養を豊かにしてしまい、広葉樹がより成長しやすい土壌になり広葉樹が増加してしまいます。広葉樹が増加すると、マツへの太陽光の当たる面積が低下していき、マツが衰弱してしまうので枯れてしまいます。これが「松枯れ」です。「松枯れ」後の海岸林は、広葉樹が生い茂る藪のような状態となってしまい、海岸林の本来の機能の効果が常に期待されているので、これを維持・管理していくのは重要でとても難しいとされています。

3. 海岸ごみの問題

日本の海辺には、現在年間約10万t以上のごみが漂着し環境の悪化や、景観・観光・漁業に大きな影響を与えています。

ごみの種類は、海底に沈んだ「海底ごみ」、海面・海中を浮いている「漂流ごみ」、海岸にうちあげられる「漂着ごみ」があります。特に「漂着ごみ」が海岸ごみとして海岸林に対して景観を悪くするなどの問題となっています。

そこで問題解決につながる一歩として、2009年7月8日に「海岸漂流物処理推進法」(正式名称は「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂流物等の推進に関する法律」)ができました。これは日本で初めての海のごみ対策の法律であり、都道府県の海のごみ処理を、地域の計画をもとに政府がお金の面を補助するとしています。しかし、各地域に処理計画を任せているので、計画が完成するまですぐに動けない状態であり、現時点では課題となっています。

4. 海岸林の土地開発による影響

昔から、柵を作ったり、木を植えたりして、風によって浜辺の砂が運ばれる飛砂害や海の塩が風によって運ばれる塩害と戦っていました。しかし近年では、第2次世界大戦でもっともひどく荒れてしまいました。長い戦争だったため、海岸林の管理ができなかったのが原因と考えられます。

そこで、1953年「海岸砂地地帯農業振興臨時措置法」ができ、食糧を増やすために使われていない風で浜辺の砂が積もってできた砂丘地を耕地にするなどの開発がおこなわれました。耕地を守るということから、まず荒れた海岸林の再生からおこなわれ、現在、砂丘地に存在している海岸林はこの時期に植えられたものです。

しかし、土地開発により影響がでてきました。1つは、防風のために植えられた林や砂丘地の形の変化で強風が吹くようになり、それによる飛砂害や塩害の増加です。防風林は、樹木の葉や枝・幹によって風速を弱め、かつ、風を弱めるために林は内陸に向けてある程度の奥行きが必要です。しかし、土地開発により防風林の一部の面積を伐採して耕地にしたり、工場を建てたりすることで、防風の機能が弱まってしまいます。また、砂丘地の開発により表面の凹凸がなくなってしまうと、風の抵抗が減少してしまいます。風が集中しやすい地形だとそこに強風が発生し、飛砂害や塩害が拡大してしまうのです。

2つめは、海岸林の伐採に伴う動植物への影響が考えられます。海岸性の特有な生態系が成り立っているので、海岸林の樹木が減少してしまうと動植物が住みづらくなってしまうため、十分に検討が必要です。

3つめは、海岸沿いの施設や工場設置などの開発は広大な平地を造ることになるので、津波の被害が拡大してしまう場合があります。なので、防潮機能は十分に検討しなければならないのです。